『ダンダダン』の魅力はカメラワーク、そしてラブコメの皮を被った異質なオカルト!?【連載第1話を読む】
こんにちは、マンガスクリプトDr.のごとう(@goto_junpei)です!
Web連載マンガのいいところの1つとして、「無料で最初の何話か読める」という点が挙げられると思います。
もちろん紙のマンガでも「立ち読み」とかできる場合もありますが、気兼ねなく読めるのはやっぱりWebだからこそ。
話題になってる作品のチェックができるのはもちろん、人に薦めたり・薦められたりするとき、「第1話読めるから、読んでみて!」って気軽に共有できるのが良いですよね。
そんなわけで、このnoteでも不定期にWeb連載マンガの「第1話」だけを取り上げ、作者の凄いところや作品としての特徴などを解説していく企画を始めてみたいと思います。
今回取り上げる作品・『ダンダダン』(龍幸伸先生)
記念すべき第一回作品は、少年ジャンプ+の『ダンダダン』(龍幸伸先生)です!
(※第1話未読の方は、ぜひ以下よりご覧ください)
『ダンダダン』は、2023年11月時点での累計PVが3.6億万超という「ジャンプ+」を代表する作品であり、公式の紹介文は以下のとおり。
で、こちらの第1話を読んでみて感じた「3つの特徴」を解説したいなと思います!
特徴1) 完全にわかっている人の「カメラワーク」
まずはもう特徴というより、『ダンダダン』を読んだ人なら全員が思うでしょう。
とにかくすごい画!
この作品はもう、圧倒的にこれです。
背景の書き込みの凄さ、ほぼ週刊で休みなく連載しながら維持されているクオリティの高さなんかについては、既に各所で賞賛され尽くしています。
それよりも、僕がこの作品の第1話を読んで印象的だったのは、マンガとしての「カメラワーク」です。
例えば第1話は学校のシーンが多いのですが、室内でカメラを回す場合、マンガであれば「壁の中にカメラをめり込ませた状態」で撮るのが普通なんですね。
映像でいえば、実際の建物内じゃなくて、セットを造って撮ってるイメージ。セットだから、いくらでも壁を外した状態で画が撮れる。
でも、作者の龍幸伸先生は、それを明らかに嫌っている印象です。カメラは実際に置けるところにしか置かない、というこだわりを強く感じさせてくれます。
ちゃんと望遠で撮るべきところは望遠で撮りつつ、室内では(ちゃんとカメラが置ける場所からだけ撮るので)広角のショットを多様。
これはもうカメラのことをめちゃくちゃわかってる人の画づくりだな!と。
読めば読むほど、いいアングルだなーと眺めてしまいます。カメラのこと好きじゃないと絶対こうは描けないですし、良い意味で「よくこんなの描くな」と思いました。
背景の書き込み含め、一体どういう気持ちで描いてるんだろう、とある種の意味のわからなさを感じさせてくれます。(笑)
あと、もしかしたら、本作の「オカルト」というテーマにあわせてのカメラワークもあるのかもしれません。オカルト映画特有の「ホームビデオっぽさ」を大事にしている部分も、随所で感じられました。
いずれにしても、めちゃくちゃカメラ好きそうな人のマンガだ!とワクワクさせてくれる第1話でした。
特徴2) 萌えを感じさせないクールな「キャラクターの描き方」
『ダンダダン』は第1話冒頭、ヒロインの綾瀬さんが男の子に蹴られているシーンから始まります。こういう直接的な暴力描写は、いわゆる「愛でる」タイプの作者にはまず描けません。
それも含め、作画については、女の子萌えとかではなく、完全に背景萌え・物質萌えの人なんだと感じました。人物の動きについては、
・女の子の愛でたい仕草を描くこと
が好きなのではなく、
・女の子の身体や筋肉を描くこと
が好きなんだろうなと。
可愛い女性を描くことが好きな人は、例えば『けいおん!』のような萌え型、猫を愛でるような感じでキャラクターと向き合う人が多いと思います。
でも龍先生の場合、もう本当に人体そのもの・人間というより物質としての肉や髪が好きという感覚で描いているのではないでしょうか。
とにかく全ページ、萌えを感じさないクールな描き方で一貫しています。
個人的には「もしかして龍先生は、『よつばと!』に影響受けたのかな?」という印象でした。マンガの方向性こそ全然違いますが、表情や目などの描き方は、あずまきよひこ先生に近いものを感じます。
そもそも『よつばと!』は、よつばちゃんの可愛さゆえ世間には「萌え漫画」として認知されてる感もある作品ですが、あずま先生自身はキャラのテンプレ化がとにかく嫌で、「世界でたった一人の、その子だけを描きたい」というマンガ家さんです。
そのあたり、恐らく龍先生も同じなのではないでしょうか。
記号化された女の子の萌えを描きたくて描いているわけでは、絶対にない。
そんな凄まじくリアリスティックな、萌え思考に一切囚われないという思想を、第1話全体を通して強く感じました。ある意味、めちゃくちゃ醒めた目で女の子キャラを見ているマンガ家さんとも言えそうです。
そんな良い意味で色気の無いキャラクター作画が、『ダンダダン』という作品の妙味につながっているんだろうなぁと思わせてくれました。
特徴3) ラブコメの皮を被りながら、異質な何かを感じさせる「フォーマット」
上手だなと感じたのは、フォーマットですね。
第1話で示された設定は、実は「このあと何でもできる」設定になってるんですよね。ここについてはマンガを描く皆さんにとっても参考になると思います。
・オカルト好き/UFO好きという「相容れないんだけどお互い認め合える部分もある」2人がいて、
・そのうえで「ターボババアの呪いを解く」という目的のために「男女が一緒にいなきゃいけない」という状況
が、第1話で自然に成立しています。
過去の作品例でいえば『らんま1/2』に近いでしょう。改めてですが、らんまのフォーマットってかなり秀逸で、
という設定があるおかげで、あとはもう2人を近づけたり遠ざけたりすればいいだけになっています。つまり、「何をやってもラブコメが成立する」という形にまで落とし込まれているんです。
『ダンダダン』も、最初からこのフォーマットが出来上がっている。
ただ、『ダンダダン』がすごく新しいのは、そんならんま的な構造を持ちながら、「ラブコメの形をしたラブコメとは全く違うジャンルの作品」になっているところです。
フォーマットはラブコメなのに、ラブコメを読む時に感じる「この2人、もう付き合っちゃえよ!」的な温かみとは異質な何かを感じるんですよね。
男女の愛そのものを描くのではなく、ある種そこが切り離された描き方によって、不思議な読み味を生んでいる印象です。
すごくドライであり、湿度がない、いい意味で乾燥しきったラブコメとでも言うべきでしょうか。ラブコメはラブコメでも、本来ほろ酔いであるはずのラブコメの読み味が、辛口のスーパードライになってる(笑)。とても面白い読み味です。
2次元作品の中に愛を求める人は多くいる一方、「もう恋だの愛だのはいいよ」という人も一定いるわけで、そういう人にこそ特に刺さる作風じゃないかと思います。
恋や愛が描きたいというより、ラブコメのパロディというか、ラブコメの皮を被った何か違うものを描きたくて、わざとこういう構造にしたのではないでしょうか。
ラブコメではありつつも、「ラブコメということにしておけば、一定の性癖嗜好を隠せる」という見込みのもと、ものすごく上手に隠しているつもりの性的嗜好のようなものを、私はこの第1話から勝手に感じてしまいました(笑)。
何かこう書くとお化けや妖怪を評してるみたいですが(笑)、もしかしたらこの得体の知れない感じこそが、公式あらすじにある「理解を超越した圧倒的怪奇」なのかもしれませんね・・・!
以上のように、ストーリーの面白さや書き込みの凄さはもちろん、カメラアングル、キャラクター、構造にそれぞれ「異質」を感じさせる作品だからこそ、『ダンダダン』は連載当初からずっと高い人気を維持できているのではないでしょうか。
単なるバトルものでもなければラブコメでもない、分類不能な不思議な魅力をぜひ今回の第1話から感じ取ってみてください。
というわけで、また次回。さよなら〜!
*皆さんのほうで「第1話を解説してほしいマンガ」があれば、ぜひnoteコメントやX(旧Twitter)で教えてくださいね〜!
<追伸>
この原稿みたスタッフから、「龍先生、『ダンダダン』はラブコメだし可愛い顔描くの好きだって、インタビューで思い切り明言してますよ・・・」って言われたのですが、僕は「皮」だと信じてます!(笑)