マンガにあって映像脚本に存在しないもの、それは「キャラクター」と「感情」だった!
こんにちは、マンガスクリプトDr.のごとう(@goto_junpei)です。
今回はまずコルクスタジオ編集長として、大事な大事なお知らせをさせてください!
コルクスタジオの新作webtoon『キラー・ゴールドフィッシュ』が、LINEマンガにて10月22日(日)より連載開始しました!
やったーーー!!!
というわけで今回は、『キラー・ゴールドフィッシュ』に関わることで気づいた「実写映像」と「マンガ」の違いについてお話させていただきます。
『キラー・ゴールドフィッシュ』の告知ですよ【大事】
本題の前に、まずは宣伝です!
『キラー・ゴールドフィッシュ』は初回一挙10話公開、続きは毎週日曜日に更新されていきますので、ぜひコチラよりお読みください。
本作の特徴は、堤幸彦監督、本広克行監督、佐藤祐市監督が共同で制作指揮をとる「SUPER SAPIENSS」プロジェクトの第1弾作品としてのリリースであり、すでに堤監督による実写映画化も決定しているという非常にスケールの大きな取り組みであること!
(映画には梶裕貴さんも出演するよ!)
コルクとしても佐渡島さんがマンガのプロデューサーとして参画し、もちろん僕も編集として関わっているのだけど、、、
個人的に何より嬉しいのが、コルクラボマンガ専科の卒業生であるちょびさんがネーム・作画を担当していることです!
ちょびさんのカメラアングルの工夫や画作りのセンス、そして凄く細かいところまで気を配っている映像的な演出など、シナリオとあわせてぜひお楽しみください。
・・・と、ここまでしっかり宣伝をさせていただきましたが、作品内容そのものについて僕が語り始めるとネタバレしちゃいそうだし、やっぱりまずはマンガで読んでほしいので、『キラー・ゴールドフィッシュ』の話はここまで!
コルクのX(旧Twitter)アカウントをフォローしておいてもらえると、最新情報や展開の告知なんかも届くので、ぜひお願いします(笑)
堤監督を見ていて気づいた「実写映像」と「マンガ」の違い
というわけで今回お話ししたいのは、『キラー・ゴールドフィッシュ』に関わることで気づいた「実写映像」と「マンガ」の違いについてです。
今でも覚えてるんですけど、僕が『キラー・ゴールドフィッシュ』の打ち合わせに初めて呼ばれた時、Zoomに入ったら普通に堤さん・本広さん・佐藤さんの3人がいたわけですよ。
いきなり、日本を代表する3人の監督と対面ですよ?
いくら映像化とマンガ化を同時に進めていくプロジェクトとはいえ、「こんな状況ある……!?」って、さすがに緊張しました(笑)
特に、実写映像化を担当される堤監督の進め方を間近でみることができたのは、僕自身ものすごく勉強になりましたね。
そしてその過程で、僕が特に大きな気づきとして感じたこと。
それは、
あれ、マンガに比べると、案外ふんわりだな……?
という気づきでした。
堤監督は、世界観をバシッと決める一方、シナリオはそんなに詰めない。演出重視なのかな?と感じました。脚本より、撮ること。役者さんが動き、カメラを回せば面白いものが作れるぞという自信を感じました。
実は僕、最初に脚本を読んだとき「この作品(キラー・ゴールドフィッシュ)って刑事モノなんですか?」っていう質問をしちゃったんですよ。
それぐらい、最初は題材がハッキリとは読み取れなかった。
でも、堤監督は「刑事が二人、相棒でいる」ということさえ決まっていたら、もうそれで映像としてのイメージは固まり、楽しいやり取りが撮れちゃうんだろうなというのが伝わってきました。
そして改めて思ったのが、
やっぱりマンガって、下準備が大変なんだな
ということでした。
映像脚本に「キャラクター」はいない、「役者」がいる
脚本術の代名詞的な存在として『SAVE THE CATの法則』という本があります。間違いなく名著ですし、マンガのシナリオ指導の一環で紹介されることも多いのですが……
僕はどうも本書をマンガの技術として転用することに、違和感というか「なんか違うんじゃない?」という部分があることをずっと感じていました。
それが今回、堤監督のお仕事ぶりを拝見させていただく中で、その理由というか答えにハッキリと気づくことができたんですね。
それは、
マンガに、役者はいないから!
もう、この一点に尽きるなと。
実写映像には役者がいて、その生きた役者を撮ることで面白さが何倍にも膨らんでいきます。
でも、マンガにはその生きた役者がいないから、役者をつくるところから始めないといけません。
そもそも『SAVE THE CATの法則』に代表される脚本術は、全て「撮る」ところからスタートしています。
つまり、ゼロからつくる・生み出すという視点ではなく、まずはハコありきの視点になっています。
ここはすごく面白い違いだなと思いました。
もっとも顕著に現れるのが、マンガと実写映像だと真逆になるんですよね、「意志」と「行動」の順番が。
実写映像の脚本術は「撮る」ありきなので、「行動を撮ることで、意志を見せていく」という順番です。
一方マンガの場合は「意志」ありきなので、「意志があるから、描くべき行動が見えてくる」という順番になるのです。
そうか、ここがマンガと実写映像の一番の創り方の違いなんだなと。
全ての脚本は、行動から意志を撮るという前提で書かれるけど、マンガは先に意志を決定してからでないと描けない。
だって、そこにまだ「役者(キャラクター)」がいないから。
この差が非常に大きいんです。
感情が補完されることで、キャラは魅力的になる
個人的には、実写映像における「意志」は、演技に宿るのだと考えています。
脚本には状況や出来事が書かれていますが、「こういう状況や出来事なら、こういう感情になるはず」という解釈・表現は書かれません。基本的に全て役者さんに委ねられています。
つまり、意志は脚本ではなく役者さんが担うべき領域。その住み分けができているからこそ、成立している世界なのでしょう。
マンガと実写映像のどちらが大変とかいう話では全くなく、世界の創り方の違いの話という大前提なのですが、これはちょっと羨ましいなぁと。
だって、感情を掴んで描くってめちゃくちゃ難しいじゃないですか……!
『SAVE THE CATの法則』でも「状況」の分類やパターンについては沢山書いてあるんですが、より追求したいのは感情なわけで、「それはやっぱりしっくりこないはずだよなー」というポイントが改めて明確になったわけです。
役者さんが感情を補完してくれるって、やっぱりめちゃくちゃ強いんですよ。
だって役者さん自身のこれまでの人生、仕事や生活の中で実際に体験した出来事なんかを通して、感情を補完してくれるわけですから。
堤監督作品でいえば、『ケイゾク』の中谷美紀さん・渡部篤郎さん、『SPEC』の戸田恵梨香さん・加瀬亮さん、そして『TRICK』の仲間由紀恵さん・阿部寛さん。
みなさん名優と呼ばれる凄い役者さんばかりですし、そんな人たちが堤監督のあの世界観と、クセの強いキャラクターの感情を掴み、深めながら演じてくれるわけですから…
それは強い、ほんと強すぎる(笑)
設定さえあれば、あとは役者に託すことで良い作品にできる、というのも納得です。逆に、だからこそ堤監督のような演出の手腕が、作品を通して際立ってくるのだと思うのです。
マンガと実写映像、その違いの難しさ・面白さ
マンガの企画会議では、たまに「これ、実写映像ならいけそうかも?」という企画があがってきます。
「ちょっとクセのある役者さんが演じるなら成立しそうだけど、マンガとして描くのは……」みたいなタイプの企画です。
先ほど例として挙げた阿部寛さん主演作品でいえば、『結婚できない男』というドラマ。あれも阿部さんが演じてる作品だから面白いわけで、もし新人マンガ家さんから「企画」として挙げられたらどうかというと……。
正直、マンガの企画として通せる自信は、僕にはないかもしれません。
もちろん阿部さんが演じたような人間的魅力に溢れたキャラというのは沢山いますが、企画として「ただただ人間の魅力を描く」というのは、描き手側に相当な作家力が要求されると思います。
阿部さんのような役者さんの演技力を、そのままマンガで再現することの難しさの証明とも言えるでしょう。
いずれにしても、脚本術にはまずハコがあり、それを撮ることを前提に語られらたものになっているので、「意志」が言葉としては抜けています。
一方マンガは「意志」さえあれば描けるものであり、脚本術で必要な「動き」で表現する、だけではない自由さがあります。
そういった点を理解したうえで脚本術の書籍を読んでみると、マンガを描くうえでの新しいヒントなんかも掴めるかもしれませんね。
なお『キラー・ゴールドフィッシュ』では、担当のちょびさんはもともと映像作品については僕なんかより全然詳しい人で、今回の作品では「映像」の違いをよく理解しているからこそ、上手く「マンガ」にしてくれたと感じています。
というわけで、最後にまた『キラー・ゴールドフィッシュ』の宣伝に戻るのですが(笑)、現在10話まで公開中で毎週日曜公開となりますので、ぜひ読んでみてください!
あと、『SAVE THE CATの法則』も、ほんとにすごい本なので、モノづくりに興味がある方はぜひ一度読んでみてください。
そんなわけで、また次回。さよなら〜!
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