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『SPY×FAMILY』こそ、コロナ禍で求められた「新しい価値観」の物語だった!?【連載第1話を読む】

こんにちは、マンガスクリプトDr.のごとう(@goto_junpei)です!

Web連載マンガの「第1話」だけを取り上げ、作者の凄いところや作品としての特徴などを解説していく不定期企画、第二回は遠藤達哉先生のメガヒット作品『SPY×FAMILY』を紹介させていただきます!


今回取り上げる作品・『SPY×FAMILY』(遠藤達哉先生)

2019年3月に連載がスタートし、アニメ化前から単巻で100万部を突破するなど「少年ジャンプ+」の看板的な作品だった『SPY×FAMILY』。

そして2022年4月のアニメ放映開始以降、その人気はまさに大爆発。

ジャンプの枠すら超えたまさに国民的大ヒット作となり、日本のWeb連載マンガの中ではNo.1的な存在となりました。

あまりにもヒットしている現在連載中の作品のため、皆さん既によくご存じかもしれませんが、公式の紹介文は以下のとおり。

凄腕スパイ<黄昏>は、より良き世界のため日々、諜報任務にあたっていた。ある日、新たな困難な司令が下る――…。任務のため、仮初めの家族をつくり、新生活が始まるのだが!?スパイ×アクション×特殊家族コメディ!

(ジャンプ+公式サイトより)

そんなわけで、今回は『SPY×FAMILY』の第1話を読んでみて感じた「4つの特徴」を解説したいなと思います!

特徴1)いきなりミッション完了!? 「家族」ではなく「疑似家族」の物語

『SPY×FAMILY』は、その名のとおり主人公・黄昏の「ファミリー=家族」を描いた作品であり、家族愛というか、「理想の家族って何だろう」的な部分が求められているのを強く感じます。

ただ、特徴的なのが「家族」ではなく「疑似家族」である点です。

もちろん「実は血がつながってない親子の交流」みたいなヒューマンドラマの作品はありますが、スパイアクションなど他の皮を被せるための設定としての「疑似家族」モノっていうのは意外と無いんですよね。

基本は「リアルな家族」、何らかの事情を含ませる場合でも「血縁関係」(姉の子、叔父、祖父etc)は持っているパターンが大半。

もちろん「親同士の再婚によって家族になった血のつながらない兄妹」「実は血がつながっていなかったことが明らかになった姉弟」みたいな場合もありますが、それはまぁ関係性的には擬似ではなくリアル家族と言っていいでしょう。

戸籍的には完全な他人と家族になる場合も、恋人や昔からの馴染み、あるいは捨てられた子を拾った育ての親パターンなど、「家族になるべくしてなっている関係性」というのが大前提だと思います。

ところが『SPY×FAMILY』における家族の位置付けは、主人公・黄昏の目的達成のための手段に過ぎません。しかも何が凄いって、連載開始早々に家族(子ども・アーニャ)を得てしまっているのです。

あれ……? 連載第1話目で、ミッション、完了しちゃったぞ……!?


普通に『SPY×FAMILY』の設定だけ聞いたら、「家族を得るためのストーリー」だと思うじゃないですか。『ONE PIECE』でいう仲間たちを得ていくストーリー的な。

それがいきなり、ロイド家として家族を得ちゃう。さらに第1話のラストでもう、次話で奥さん登場がほぼ確定しちゃう。まさにこれ、

「スパイとしての潜入ドキドキやアクションを楽しんでもらうマンガではなく、擬似家族による『サザエさん』が始まります」

という予告編というか、第0話(beginning)的な位置付けになってるんですよね。この疑似家族が早々に揃う構成こそが、『SPY×FAMILY』の大ヒットにつながっていくのです。

特徴2)異世界転生モノとの意外な共通点、「現代の価値観」無双

いわゆる家族モノを観たいニーズって昔から強いというか、「家族欲」みたいなものは昔から変わらない価値観として存在すると思います。

その代表的な作品こそ、『サザエさん』であり『ちびまる子ちゃん』。不変であることの安心感みたいなものもあるかもしれませんが、家族欲を満たしてくれるという点で大きな支持を得ている作品例と言えるでしょう。

一方で僕自身もそうなんですが、「家族モノが苦手」っていう人も一定数いるんですよね。たぶん家族団欒の形や親子・兄弟の関係性など含め「家族はこうあるべき」みたいなレッテルを貼られるのが嫌な人たちなのだと思います。

でも『SPY×FAMILY』は、「家族モノを擬似家族で作ろう」としているわけです。しかもそれは決してレッテル貼りや価値観の押し付けではなく、あくまで主人公自身の意志としてだからこそ、家族モノが好きな人はもちろん、苦手な人にも受け入れやすかったのではないでしょうか。

スパイなのにデジタル庁のマイナンバーカード普及キャンペーンを担当してるぞ!これも新しい価値観だ!
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000014.000086734.html


そしてなにより『SPY×FAMILY』が設定として上手なのは、現代の家族の価値観を、数十年前(冷戦時代)の世界に持ち込んでいるところです。

ロイド家の
・奥さんと共稼ぎ
・奥さんは料理しない(できない)けど、旦那さんのほうが家事全般を担当
・育児もお互い協力している etc…
これらのスタイルは極めて今風で、冷戦時代にはなかった家族の形であり、読んでいて好ましく感じることでしょう。

これって実は「転生モノ」と同じ楽しみ方をしてるんですよね。

転生モノが持つ面白さは、「強さによる無双」も勿論なんですが、「現代の価値観を異世界に持ち込む」ところにもあります。

現代の価値観を持つ主人公が、昔の誤った価値観を持った人間を正していくという爽快さが、これだけの多くの支持を得ている要因なんですよね。

『SPY×FAMILY』に感じる爽快さは、まさに転生モノの構造にあったわけです。

そして当時を普通に生きている(=転生しているわけではない)ロイド家だけが現代の価値観にアップデートできている理由こそが、本物の家族ではなく疑似家族、「作ろう!』とする主人公の意思によって作られた家族だから、という部分にあるのです。

うーん、こう考えるとやっぱりすごい設定ですね、疑似家族。

特徴3)コロナ禍による「価値観の変化」こそが、メガヒットの背景

そんな見事な設定・構成をもつ本作ではありますが、『SPY×FAMILY』が単なるヒットを超えたメガヒット作になったのは、コロナ禍の影響が非常に大きいと思っています。

2019年3月の連載開始時点では当然コロナは無かったわけですが、約1年後には「緊急事態宣言」も出るなどして、さまざまな価値観がひっくり返されることになりました。

外出もままならないコロナ禍においては、恋人や友人よりも「家族」と過ごす時間が自然と増え、安心安全で気を遣わず会話ができる間柄の価値が見直されました。

また、孤独であることの怖さ・つらさから、解放・安心を求めるようになったのでしょう。家族を持ちたい・つくりたい、という気持ちが強くなったという変化が、さまざまな調査からも報告されています。

ただ一方で、家族をつくるハードルも高くなってしまいました。気軽に会話ができない時世が続いたことで、相手とどうコミュニケーションをとっていいかわからなくなってしまったのです。

そんなジレンマを多くの人が抱える中で、主人公が「理想の家族を持ちたい!」という力強い意志のもと、自分の代わりに夢を叶えてくれる作品となってくれたのが、まさに『SPY×FAMILY』だったのです。

コロナ禍によって掘り起こされた不安や潜在的ニーズがメガヒットの背景となったこと、そして多くの人に求められ・受け入れられた形こそが「疑似家族」であったことは、とても興味深いですよね。

特徴4)アーニャがそこにいるから、『SPY×FAMILY』は成立する

最後に、『SPY×FAMILY』を唯一無二の疑似家族マンガとした超重要キャラクター、それはもう間違いなくアーニャちゃんです。

可愛いとか癒しとかいった造型部分ではなく、アーニャちゃんが「夫婦の子ども」として存在することで、はじめて『SPY×FAMILY』は疑似家族のストーリーを成立させることができるのです。

仮に黄昏とヨルさんの「夫婦」でストーリーを構成した場合、どうしても「家族」というより「夫婦間の愛情」の話になってしまうんですよね。

イメージとしては、ブラッド・ピッドとアンジェリーナ・ジョリーの共演作である『Mr.&Mrs.スミス』でしょうか。

美男美女のバトルアクション、夫婦という「家族」の物語、ハラハラするスパイ活動 etc.『SPY×FAMILY』に共通する設定はたくさんあるのですが……。

ほんとにただアーニャがいないという一点だけで、全く『SPY×FAMILY』ではないものになってますよね。(笑)

古くから「子はかすがい」と言われますが、アーニャちゃんは言ってみればかすがいの最上位みたいな存在です。

先ほどのコロナ禍のくだりでも少し触れましたが、恋愛することには怖さが伴いますし、夫婦間でも当然いろいろある。でも、かすがいである子(アーニャ)がいてくれるおかげで、家族モノとして安心できる。

しかもアーニャちゃんは心を読んでくれるから、当時のみんなにとって最大の恐怖だった「コミュニケーションの間違い」が無い存在なんですよ。

まさに完璧なかすがい。

これは本当にすごく上手い構造というか、『SPY×FAMILY』最大のストロングポイントです。とにかく、アーニャちゃんのバランスが良すぎる。

そもそもエスパーの小さな女の子って、どんなキャラの組み合わせに入れても面白くなりそうだし、心を読む以外のスペックはあくまで普通の幼女であって、何も話を動かせない(解決できない)役回りなのも本当にいい。

繰り返しますが、スパイの旦那と殺し屋の奥さんだけだとバトルアクション、あるいは家族というより恋愛モノにならざるを得ません。少なくとも、みんなが和んで読めるような作品にはなっていないでしょう。

そこを『SPY×FAMILY』という作品は、三人目にエスパーの子ども(しかも心を読むだけの存在)を入れたことで、ずっと日常が続く家族モノに仕立て上げたわけです。これは本当に見事だなと。

スパイ・殺し屋・エスパーで、疑似家族をつくる。
それでいて、やっていることは『サザエさん』的な家族の日常話。

『ダンダダン』もラブコメの皮を被ったオカルトという見事な構造でしたが、『SPY×FAMILY』はもうそれどころの皮の被り方じゃないですね。

その辺りは、さすがスパイマンガとでもいうべきでしょうか。(笑)

兎にも角にもサザエさん系譜の国民的大ヒットマンガとでもいうべき作品ですので、未読の方はぜひこの機会にぜひ第一話をお読みくださいませ。

というわけで、また次回。さよなら〜!


*皆さんのほうで「第1話を解説してほしいマンガ」があれば、ぜひnoteコメントやX(旧Twitter)で教えてくださいね〜!

<追伸>
「そりゃ今の『SPY×FAMILY』の売れ方みれば、どうとでも褒められるだろ」と感じた人、ちょっとお待ちください!

僕、2019年の8月時点で『SPY×FAMILY』の大ヒットを予言してたんですよ! え、すごくないですか? え、もはや僕、エスパーじゃない??

ちなみにこの回、まだ若かったせいか「第三者の心の声を読者に見せるメソッドは最強だ!」という主張が、全然スタッフの皆さんに刺さらないグダグダな様子に終始しています。

・・・4年で僕も成長したということですかね、たぶん。


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ごとう隼平
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